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大阪地方裁判所 昭和38年(ワ)5533号 判決 1969年2月04日

原告 日本パルプ工業株式会社

右代表者代表取締役 太田武雄

右訴訟代理人弁護士 高須宏夫

被告 才木材木店こと 才木勝治

右訴訟代理人弁護士 三宅岩之助

同 北山六郎

同 宮崎定邦

右訴訟復代理人弁護士 森田宏

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一、当事者の申立

一、原告訴訟代理人

「被告は、原告に対し、金五六、九六七、四四〇円およびこれに対する昭和三九年一月一一日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

二、被告訴訟代理人

主文同旨の判決を求める。

第二、請求の原因

一、原告は、パルプ製造販売ならびに原木、木製品の販売等を業とする会社である。

二、原告山林事業部大阪山林部は、被告の姫路支店支配人ないしその経営の受任者として、被告から代理権を授与されていた入江徹に対し、別紙一に記載のとおり継続的に原木、木材製品等を売渡す契約をし、その引渡しをした(以下「本件売買」という。)。

三、仮に、右入江が前項のとおり支配人または代理人でなかったとしても、入江は、被告に雇傭され、右支店の支店長として取引していたことは、姫路地区の木材業界に周知のことであった。したがって、被告は、入江のなした本件売買について、商法第四二条に基き責任を負う。

四、仮に、右主張が認められないとしても、被告は、原告姫路駐在員富永信久に対し、同人が八鹿に出張した時、入江に本件売買の発注、木材の受領等をなす代理権を与えた旨明示した。仮に、本件売買が入江の代理権の範囲外の事項であったとしても、次項記載の事情により、原告は、本件売買を入江の代理権の範囲内にあるものと信ずべき正当の理由がある。したがって、被告は、入江のなした本件売買について、民法第一〇九条ないし同法第一一〇条に基き責任を負う。

五、被告は、入江が被告と同一の商号を使用して木材取引をなすことを許諾していたものであり、原告は、次のような事情により、被告を営業主と信じて本件売買をしたものである。すなわち、

被告は、兵庫県に対し、木材業者登録条例(昭和三三年兵庫県条例第七三号)により、木材業者として出張所を姫路市神屋町四丁目におくことを登録し、同所々在の自己所有家屋を入江に貸与し、同人を姫路、神戸地区の各木材市場に被告の代表として出入りさせ、第三者に対し入江を姫路支店の支店長ないし責任者であると紹介し、被告の長女博子とその夫であって被告方に勤務していたおいの才木博を入江のもとで働かせ、林材興信所西部本社発行の大阪木材仲買業者銘鑑に本店兵庫県養父郡八鹿町旭町、支店姫路市神屋町四丁目と広告を掲載した。また、右神屋町四丁目所在の家屋には、才木材木店という看板が掲げられ、入江の使用していた自動車には、本店八鹿、支店姫路と表示がしてあり、飾磨港に入る本件売買木材もその多くは被告の自動車で運送され、電話番号簿および被告が使用していた便箋、封筒、請求書、納品書等に被告姫路支店の表示があり、本件売買につき入江が振出した約束手形の振出人欄の入江徹の肩書に才木材木店と記載されていた。

したがって、被告は、入江のなした本件売買について、商法第二三条に基き、同人と連帯してその債務を弁済すべき責任を負う。

六、よって、原告は、被告に対し、本件売買により生じた代金から、別紙二に記載の入金を控除した残金のうち金五六、九六七、四四〇円およびこれに対する本訴状送達の翌日である昭和三九年一月一一日から右支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

第三、請求の原因に対する答弁

一、請求の原因第一項は認める。

二、同第二、三項は否認する。入江は、被告とは独立した木材業者である。

三、同第四、五項のうち、原告主張の家屋を被告が入江に貸与していたこと、同家屋に、原告主張の看板が掲げられていたことは認めるが、その余の事実は否認する。被告は、昭和三三年一二月ころ倒産した入江を援助するため、右家屋を同人に貸与し、木材を継続的に売渡す取引上の便宜を与えていたものである。

第四、抗弁

(請求の原因第三、四項に対し)

一、原告の姫路駐在員富永信久は、入江のなした本件取引につき、すべて原告を代理してその担当をしていた。ところで、入江は、右富永に対し、看板は才木材木店と掲げているけれども、実態は入江の店である旨話していたものであり、また、富永は、原告と入江の間に売買があったように仮装して、入江から手形を振出させ、その手形に才木材木店という表示をさせていたのであるから、富永は、入江の店が被告と別であることを知悉していたものである。

仮に、富永に代理権がなかったとしても、民法第一〇一条の趣旨より、原告は、入江のなした本件売買につき、入江が被告と別主体であることを知っていたというべきである。

(同第五項に対し)

二、仮に、原告が、入江のなした本件売買の相手方を被告であると誤信していたとしても、原告には、右誤信するにつき、次のとおり重大な過失がある。

(一)  原告は、大量かつ相当長期にわたる本件売買をするに当って、取引先である被告との間に取引基本契約を締結しなかったばかりか、その申出もせず、ただの一度も、来訪、電話連絡することがなかった。

(二)  本件売買につき振出された手形の振出人欄には、「姫路市神屋町四丁目五四入江徹」とゴム印で記入し、入江徹の肩書部分に、ペン字で「才木材木店」と書かれているものがあるが、右の表示自体、被告の支店を表示せず、また、入江の資格が何であるかわからないのであるから、振出人が被告といかなる関係にあるか、確かめるべきであったのに確かめていない。

被告は、入江が本件売買につき振出した手形に支払場所と記載されている大和銀行姫路支店と何の取引関係もなく、また、被告の振出す手形は、すべて振出人、振出地、支払地等の欄を活版印刷した用紙を使っていることを、原告の販売会社であり、富永信久が事務所としていた土建センターは知っていたのにこれを見逃している。

(三)  原告の本訴状別表記載の取引のうち、相当の部分は、書類上又は帳簿上取引があったごとく仮装されたものであり、専門家が見れば、一見して仮空取引であることがわかる本件販売材報告書により、真実売買があったものと考えていたとすれば、専門の木材取引業者である原告に重大な不注意があり、もし、これが注意されていれば、富永が行っていた仮空売上げとそれによる融通手形の取得が判明し、ひいては、入江の手形振出しの不審さや入江のなす取引が被告の営業ではないことを簡単に知りえたものである。

(四)  富永は、入江と共謀して前記仮空取引をなし、入江の店が被告の取引先にすぎないことを知悉していたのに、原告の上級者がこれに気づかなかったのは、原告が、姫路における取引をすべて富永に任せて、その監督を怠っていたものであり、さらに、原告は、入江が独立して営業していることは広く知られていたのに、この点の調査をしなかった。

第五、抗弁に対する認否

いずれも否認する。

第六、証拠≪省略≫

理由

一、請求の原因第一項については、当事者間に争いがない。

まず、原告主張のとおり入江徹が被告から代理権を授与されていたかにつき判断する。

被告が、原告主張の家屋を入江に貸与していたことおよび同家屋に原告主張の看板が掲げられていたことは当事者間に争いがなく、また、後示第四項の事実が認められるが、他方、≪証拠省略≫を総合すると、入江徹は、昭和三二年一一月ころ、自己が営業していた木材業に失敗し、そのため被告に数十万円の未払債務を負い、これを返済すべく、被告からある程度割高に木材を購入し、右倒産前の得意先へ売却していたこと、入江は、右倒産のため信用を失ない自己名義で木材取引ができなかったので、被告からその商号を使用して木材の販売をなすことの承諾を得たことを認めることができ、これらの事実に照らすと、頭初の事実から原告主張の代理権授与の事実をただちに推認することはむずかしく、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

したがって、原告の本訴請求のうち、入江に代理権があったことを理由とするものは、その余の点を判断するまでもなく失当である。

二、次に、原告主張の商法第四二条に基く被告の責任につき判断するに、入江が、被告に雇傭されていたと認めるに足りる証拠がないので、その余の点を判断するまでもなく、被告に右責任があるということはできない。

三、さらに、原告主張の民法第一〇九条、第一一〇条に基く被告の責任につき判断するに、≪証拠省略≫を総合すると、原告姫路駐在員富永信久は、昭和三八年九月ころ、原告山林事業部大阪山林部業務課長宇田津幸治から命を受けて、被告方へ市況調査等の目的で、入江に案内されて出張した際、八鹿木材市場理事長室で、被告と面会し、あいさつを交したことを認めることはできるが、進んで、被告が、入江に本件売買につき代理権を与えた旨表示したと認めるに足りる証拠がないので、その余の点を判断するまでもなく、被告に右責任があるということはできない。

四、そこで、原告主張の商法第二三条に基く被告の責任につき判断する。

≪証拠省略≫を総合すると、原告山林事業部大阪山林部は、被告の商号を使用していた入江との間で本件売買をしたことが認められる。右認定を動かすに足りる証拠はない。

被告が原告主張の家屋を入江に貸与していたことおよび同家屋に原告主張の看板が掲げられていたことは当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫を総合すると、被告は、前示の事情から、被告と同一の商号を入江が使用して木材取引をなすことを許諾していた。また、原告山林事業部大阪山林部では、次の事情があったことにより、被告を営業主と信じて本件売買をした。すなわち、被告は、但馬地方における有力な木材業者であり、兵庫県に対し、木材業者登録条例(昭和三三年兵庫県条例第七三号)により木材業者として自己の出張所所在地を姫路市神屋町四丁目二七と登録し、姫路、神戸各木材市場における自己名義の取引わくを入江が使用することを許し、株式会社林材興信所西部本社発行の大阪木材仲買業者銘鑑(一九六三年版)に自己の本店兵庫県養父郡八鹿町旭町、支店姫路市神屋町四丁目と広告を掲載した。被告の長女博子とその夫であって、以前被告方で勤務していた才木博が、入江のもとで働いていた。入江は、自己の営業用三輪自動車に本店八鹿、支店姫路と表示し、飾磨港に入った本件売買による木材の多くを被告所有の自動車を利用して運送し、日本電信電話公社発行の電話番号簿に自己の加入した電話番号を才木材木店姫路出張所として普通掲載し、請求書、納品書に才木材木店、本店養父郡八鹿町と印刷したものを使用し、本件売買代金支払いのため振出した約束手形の振出人欄に才木材木店の肩書を表示していたことが認められる。≪証拠判断省略≫

(なお、原告主張の事実のうち、被告が、第三者に入江を姫路支店の責任者等であると紹介したことについては証拠がなく、また、被告が使用している封筒、便箋に姫路支店の表示があることは、原告が本件売買の期間中にこれらの事実を知っていたと認めるに足りる証拠がないから、右誤信するに至った原因となっているということはできない。)

以上の事実によれば、被告は、自己の商号を使用して木材取引をなすことを入江に許諾した者として、原告が、その営業主を被告であると誤認してなした本件売買によって生じた債務につき、商法第二三条に基く責任を負うべきものである。

五、そこで、被告主張の原告に重過失があったかどうか判断する。

≪証拠省略≫を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  原告は、別紙一に記載のとおり期間一年二か月にわたり、その売買代金合計六、八〇〇万円をこえる本件売買をするに当り、被告との間に取引基本契約を締結ないしその申出もせず、前示姫路駐在員富永信久が被告を訪れたほかに、一度も被告を訪れたり、電話で連絡することがなかった。

(二)  入江が本件売買代金支払のため振出した約束手形のうちには、振出人として入江徹名義がゴム印で表示され、その肩書にペン字で「才木材木店」と書かれているものがあったが、原告は、右振出人と被告との関係について確かめていなかった。

被告は、入江が振出した右約束手形に支払場所と記載されている大和銀行姫路支店と取引関係なく、また、姫路市所在の株式会社土建センターは、原告から指示を受けてその木材を販売していた会社であるが、被告から、振出人、振出地、支払地等の欄を活版印刷した用紙を用いた被告振出しの約束手形の交付を受けていた。なお、富永は、当時、土建センターの事務机を使用して事務をなすことがあった。

(三)  富永は、原告山林事業部大阪山林部のただ一人の姫路駐在員として、単独で本件売買契約の締結を決定する権限をもっていなかったにもせよ、その上司である大阪山林部業務課長である宇田津の指示に基いて本件売買の渉に当っていたものであるところ、富永は、入江から、その営業が被告の営業とは経理が別であることを告げられて、そのことを充分知っていたにもかかわらず、これを上司に連絡した形跡がないこと、しかもその富永は、入江および訴外作原正三と相互に意思を通じて、入江に金融を得させるために仮空取引に基いて入江に融通手形を発行していた。

≪証拠判断省略≫

さて、商人が信用取引をするに際しては、その売掛代金を確保するためにみずから相手方の資産を調査し、または、相手方と接渉してその資産内容を知るなどの措置をとり、その信用状態を十分考慮するのが通常の状態であるというべきである。

しかるに、右認定事実によると、原告は、本件売買の相手方が個人営業であり、かつ、本件売買が継続的で、金額、数量ともにかなりのものというべき信用取引であるにもかかわらず、本件売買をなすに際し、相手方に対する照会はもちろん、相手方の資力につき十分な調査をする等の措置をとらず、さらに、原告の使用人であった富永が、入江から同人は被告と経理が別である旨告げられていたのに、同人は、その点の調査をなすことも、またこれを上司に報告することもせず、漫然と入江と取引をなしていたものであり、なお、入江から本件売買代金支払いのため受取った約束手形に振出人となっていた入江の被告商店とのつながりが記載されていなかったことを看過していたものであって、これらの点を考えあわせると、原告は、本件売買の取引相手方を被告であると誤信したことにつき、重大な過失があったものというべきである。

そうすると原告は商法第二三条に基き、被告に対してその責任を問い得ないものといわなければならない。

六、以上のとおり、原告の本訴請求は、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用は、敗訴した原告の負担とし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高林克巳 裁判官 惣脇春雄 川波利明)

<以下省略>

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